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技術コラム

シムの硬度の決め方|材質・調質・加工方法から考える選定ポイント

図面に「HV450以上」「HRC50以上」と硬度を書き込んだものの、その硬さをどう実現すればよいか判断できずに止まってしまう。特注シムのご相談では、こうした場面によく出会います。シムの硬度は材質だけで決まるものではなく、圧延の調質、熱処理の有無、板厚、そして加工方法まで含めた組み合わせで決まります。特に薄いシムでは、硬さを上げるための熱処理がかえって変形を招き、費用も跳ね上がることがあります。

この記事では、シムに硬度が求められる理由から、硬さを表す単位の違い、材質ごとの目安、熱処理と調質材の使い分け、加工方法との関係までを順に整理します。あわせて、図面に硬度を指定するときに伝えていただきたい情報と、特注シム製造センター.comの対応範囲もご紹介します。

シムに硬度が求められる理由

シムに硬度が求められるのは、組み付けた後も決めた高さを保ち続けるためです。ただし、すべてのシムに高い硬度が必要なわけではありません。

シムは機器や金型の隙間に挟んで高さを精密に調整する薄い板です。せっかく調整した高さが使用中に変わってしまえば、どれだけ精密に加工しても意味がなくなります。硬さは、その「変わらなさ」を支える性質のひとつです。

高い面圧がかかる箇所で起きること

締結によって高い面圧がかかったとき、材料が柔らかければ塑性変形を起こし、荷重を抜いても元の厚みには戻りません。いわゆる「へたり」です。設計上の調整量が失われ、再調整や部品交換が必要になります。高い圧力がかかる場所で使用されるシムに焼き入れリボン鋼のような硬い材料が選ばれてきたのは、このためです。

繰り返し荷重がかかる用途や、板ばねのように弾性を利用する用途でも、硬さは選定の軸になります。

硬度よりも板厚が優先されるケース

一方で、シムは高さ調整のための製品であるため、板厚が最も重要となり、材質や硬度が重要ではないケースも多くあります。当社にご相談いただくお客様の中にも、板厚とサイズの指定はいただくものの、材質についてはなんでもいいというご依頼がございます。

つまり、硬度を指定する前に「何のために硬さが必要なのか」を切り分けることが出発点になります。面圧によるへたりを避けたいのか、摩耗を避けたいのか、ばねとしての弾性が欲しいのか。目的が変われば、適した材質も加工方法も変わります。

>>シムの用途に合わせた材質選定のポイントはこちら

シムの硬度を表す単位と読み方

硬さとは、材料の表面に圧子を押し込んだときの変形しにくさを数値化したものです。

HV、HRC、HBはいずれも硬さを表しますが、圧子の形状と試験力が異なる別々の尺度であり、相互の換算値は近似値として扱う必要があります。

ビッカース硬さ(HV)

正四角錐のダイヤモンド圧子を押し込み、くぼみの対角線長さから硬さを求める方法です。試験力を小さくできるため、薄い材料や表面処理層の測定に向いています。ばね用ステンレス鋼帯の硬さもHVで規定されており、JIS G 4313では硬さ試験方法としてJIS Z 2244を引用しています。

なお、JIS Z 2244は2020年に「第1部:試験方法」と「第2部:硬さ値表」に分割され、第1部は2024年に改正されています。図面や仕様書で規格番号を引用する場合は、版が現行かどうかをご確認ください。

ロックウェル硬さ(HRC)とブリネル硬さ(HB)

ロックウェル硬さは、圧子を押し込んだ深さの差から硬さを求める方法です。焼入れ鋼ではCスケール(HRC)が広く使われます。測定が速く、金型材や工具鋼の分野で一般的な尺度です。

ブリネル硬さは球状の圧子を使い、比較的大きなくぼみをつくるため、鋳物のように組織のばらつきが大きい材料に向いています。

尺度 圧子 求め方 主に使われる場面 薄板への適性
ビッカース硬さ(HV) 正四角錐ダイヤモンド くぼみの対角線長さ 薄板、表面処理層、ばね用鋼帯 高い(試験力を小さくできる)
ロックウェル硬さ(HRC) 円錐ダイヤモンド 押し込み深さの差 焼入れ鋼、金型材、工具鋼 低い(押し込み量が大きい)
ブリネル硬さ(HB) 球状 くぼみの直径 鋳物、組織のばらつきが大きい材料 低い

硬さ換算表はあくまで目安

材料メーカーや商社が公開している硬さ換算表を使えば、HVからHRCへの読み替えができます。ただし、測定原理が異なる以上、換算値は近似的なものです。

図面で指定された硬さを、ミルシート上の別の尺度の値から換算して判断する場合、境界付近では判断が分かれることがあります。だからこそ、どの尺度で管理するかを最初に決めておくと、後工程での認識のずれを防げます。

薄いシムでロックウェル硬さが使いにくい理由

硬さ試験では、圧子が試験片を貫通したり、裏面に変形が現れたりしないだけの厚さが必要です。ビッカース硬さ試験では、試験片の厚さをくぼみ対角線長さの1.5倍以上とすることが求められます。押し込み量の大きいロックウェル硬さ試験では、必要な厚さはさらに大きくなります。

0.1mmや0.05mmといった薄いシムでHRCを測ろうとしても、規格どおりの条件では測定できない場合があるということです。薄板の硬さがHVで表記されることが多いのは、こうした事情によります。

材質ごとの硬度の目安

ステンレス系は圧延の調質で、鋼系は熱処理で硬さが決まります。この違いを押さえると、材質選びの見通しが立ちます。

ばね用ステンレス鋼帯(SUS301-CSP・SUS304-CSP)の調質と硬さ

ばね用ステンレス鋼帯は、冷間圧延によって硬さを高めた材料です。硬さは調質記号で区分され、JIS G 4313:2011では次のように規定されています。

調質記号 SUS301-CSPの硬さ(HV) SUS304-CSPの硬さ(HV)
1/2H 310以上 250以上
3/4H 370以上 310以上
H 430以上 370以上
EH 490以上 ―
SEH 530以上 ―

SUS301はSUS304に比べて加工硬化しやすく、同じ調質記号でも高い硬さが得られます。EH材やSEH材であれば、熱処理をしなくても素材そのもので高い硬さを持つ点が、シムの材質選定では大きな意味を持ちます。

析出硬化系のSUS631とマルテンサイト系のSUS420J2

SUS631(17-7PH)は析出硬化系ステンレスで、圧延した状態から析出硬化処理を行うことで硬さを高めます。SUS420J2はマルテンサイト系ステンレスで、焼なまし状態では150〜200HV程度、焼入焼戻し後は350〜550HV程度まで硬さが上がります。

当社でも、高い硬度と耐食性、薄板という条件が重なるご相談では、SUS301-EH、SUS329J4L-2B、SUS631-3/4H、SUS420J2といった材料をご提案してきました。このうちSUS631とSUS420J2については、硬度的に熱処理を行うことをおすすめしています。またSUS420J2はステンレス鋼の中でも特に硬度が高い材質として知られており、当社では主にワイヤー加工にて製造いたします。

焼き入れリボン鋼・SK材などの鋼系材料

焼き入れリボン鋼は、SK材やSUP材に熱処理を加えた材料です。硬い材料であるため、高い圧力がかかる場合にシムプレートとしてよく用いられてきました。

特注シム製造センター.comでは、リボン鋼、SK材、S45C、ダイス鋼など多くの焼き入れ材料に対応しています。焼き入れ材の厚みは0.5mm〜50mm程度、サイズは400mm×400mmまで対応可能です。研磨等の追加工により、標準の板厚に限らず指定の厚みでの製作もできます。

ただし鋼系は錆びやすいため、めっきや防錆油による処理が前提になる点にはご注意ください。

>>SUS製シムの板厚についてはこちら

プリハードン鋼という選択肢

プリハードン鋼は、あらかじめ調質された状態で供給される鋼材です。使用者側で焼入れ・焼戻しを行う必要がないため、熱処理にともなう変形や寸法変化、そして工程追加による納期の上乗せを避けられます。金型のキャビティ材として広く使われている材料ですが、「硬さは欲しいが熱処理工程は増やしたくない」という考え方は、シムやプレートにもそのまま当てはまります。

一方で、後から硬さを調整することはできません。要求硬度が供給されている硬さの範囲に収まるかどうかが、採用の分かれ目になります。

ニッケルクロム鋼(SNC・SNCM)

ニッケルクロム鋼(SNC)およびニッケルクロムモリブデン鋼(SNCM)は、JIS G 4053 機械構造用合金鋼鋼材に規定される材料です。ニッケルとクロムの添加によって焼入れ性が高く、焼入焼戻しによって強度と靭性のバランスをとれる点が特徴とされています。硬さだけでなく、割れにくさや疲労強度が求められる部品で選ばれる系統です。

この系統の材料を検討される場合も、硬さは熱処理条件で決まります。したがって、次に述べる熱処理と歪みの問題が、そのまま判断材料になります。

熱処理で硬度を出すか、素材の調質で満たすか

薄いシムでは、熱処理による変形リスクと費用が、硬さそのものより大きな問題になります。

指定された硬度をどう満たすか。薄板の場合は、素材の調質だけで要求硬度を満たせないかを先に検討します。

熱処理で硬度を上げる場合に起きること

焼入れは、材料を加熱して急冷することで組織を変える処理です。このとき体積変化と熱応力が生じるため、変形は避けられません。板厚が薄く、面積が大きい形状ほど、反りや歪みが出やすくなります。

さらに、熱処理は後工程として工程がひとつ増えます。当社では熱処理工程に対応できる協力会社がありますので、材料調達から一括してお引き受けできますが、工程が増える以上は納期と費用に反映されます。歪みが出た場合には矯正や研磨の工程が加わり、さらに費用がかさむこともあります。

調質材で要求硬度を満たすという考え方

これに対して、圧延の段階ですでに硬さを持っている材料を選べば、熱処理そのものを省けます。前述のばね用ステンレス鋼帯が、その代表です。熱処理をしないため歪みの心配がなく、工程も増えません。

判断のポイントは、要求硬度が調質材の規格値に収まるかどうかです。収まるのであれば、焼入れ鋼材を使う場合と比べて安く、短い納期で作れる可能性があります。

0.5mm厚でHV450以上を求められたときの進め方

実際のご相談で、板厚0.5mmの特注シム板について、図面にHV450と記載したうえで可能な限り硬度を上げたいというご要望をいただいたことがあります。

このとき、一般的な鉄系の焼入れ鋼材を選択することも可能ではありました。しかし厚さ0.5mmの材料に熱処理を施す場合は変形のリスクが高く、加工費を含めると非常に高価になってしまいます。そこで当社からご提案したのが、バネ用ステンレス鋼であるSUS301CSPのEH材です。この材料は熱処理を行わなくても素材そのものの硬度がビッカース硬さでHV450からHV550という数値を持つため、図面の要求スペックを満たしながら、熱処理による歪みの心配もありません。

さらに、当社ではこのSUS301CSPのEH材の厚さ0.5mmを自社在庫として保有しております。材料を新たに取り寄せる必要がないため、高価な焼入れ鋼材を使用する場合と比較して、比較的安価かつ短納期での納品が可能となりました。

硬さの数値だけを見て焼入れ鋼を選ぶのではなく、板厚と形状から逆算して材料を決める。これが、薄いシムで硬度を満たすときの基本的な進め方です。

>>硬度をできるだけ上げたいというご相談への回答はこちら

硬度と加工方法の関係

硬い材料でも加工はできます。ただし薄いシムでは、硬さに対応できるかよりも「歪ませずに切れるか」が実際の制約になります。

>>シムの加工方法一覧はこちら

ワイヤーカット

ワイヤー放電加工は、放電によって材料を除去するため、材料の硬さの影響を受けにくい加工方法です。焼入れ材や高硬度ステンレスにも対応できます。当社がSUS420J2のシムを主にワイヤー加工で製造しているのも、この理由によります。

ただし万能ではありません。板厚が極端に薄い製品では、加工時に歪みが発生します。0.025mm厚のシムリングのご相談では、ワイヤーカットでは歪みが発生してしまうため、当社ではエッチングでの加工を推奨しております。

エッチング加工

エッチングは化学的な処理によって金属を溶かし、形状を抜き出す加工方法です。物理的な力も熱も加わらないため、薄板の長尺品であっても反りを発生させることなく、高い平坦度を保ったまま加工することができます。バリも発生しません。

注意点はふたつあります。ひとつは、エッチングは形状をつくる工法であり、素材の硬さそのものを変えるものではないこと。もうひとつは、形状を材料に焼き付けるための原版が必要で、初回には原版作成費用が発生することです。数量がまとまれば、原版の初期費用を製品単価に分散できます。

>>エッチング加工によるシム製造が最適な場合とは?

プレス加工とレーザー加工

プレス加工は量産に適した工法です。一方で、硬い材料ほど金型への負担が大きくなり、バリも出やすくなります。当社のプレス加工技術を代表する「バリレスプレス」は、高精度に組み込まれたプレス金型によって、極限までバリが発生しないように精密プレスを行う技術です。

レーザー加工は形状の自由度が高い反面、熱で切るため熱影響が避けられません。厚さ0.2mmの薄板で幅10mmという細長い長尺形状をレーザーでカットした場合、加工時の熱による影響で製品にどうしても反りや歪みが発生します。硬さを持たせた薄いシムでは、この熱影響が問題になる場合があります。

加工方法 硬い材料への対応 薄板の歪み 熱影響 初期費用
ワイヤーカット 対応しやすい 極薄では発生 小さい 不要
エッチング加工 素材の硬さは変えない 発生しにくい なし 原版が必要
プレス加工 金型負担とバリに注意 条件による なし 金型が必要
レーザー加工 対応しやすい 熱で反りが出る 大きい 不要

図面に硬度を指定するときに伝えたい5つの情報

硬さの数値だけでなく、その硬さが必要な理由まで伝えていただけると、代替案を含めたご提案ができます。次の5点をお知らせいただけると、見積と技術提案の往復を減らせます。

  • 要求硬さと尺度:HV、HRC、HBのどれで、いくつ以上(または範囲)か。どの尺度で管理するかまで決まっていると、換算による認識のずれを防げます。
  • 板厚と外形寸法:熱処理の可否、加工方法の選択、硬さ測定の可否のすべてに関わる、最も重要な条件です。
  • 数量:単品の試作か、量産か。適した工法と費用の構成が変わります。
  • 用途と荷重条件:面圧によるへたりを避けたいのか、摩耗を避けたいのか、ばねとしての弾性が欲しいのか。目的が分かれば、別の材質でより安く実現できる場合があります。
  • 硬さの根拠と確認方法:社内規格によるものか、過去の実績からの指定か。なお当社では、硬さは材料の規格値とミルシートでご確認いただく形を基本としております。

特注シム製造センター.comでは、材質、形状、数量などあらゆる角度からコストダウンのご提案をさせていただきます。シムの用途や重要とする機能目的、役割を教えていただければ、より的確なご提案が可能です。

特注シム製造センター.comの硬度への対応

硬度のご相談に対して当社ができるのは、要求硬さを満たす材質のご提案と、その材質を歪ませずに加工する工法の選定を、まとめてお出しすることです。

材質転換によるコストダウン提案

当社では、生産管理システムで蓄積されたデータをもとに、材質転換や工法転換、図面変更によるコストダウン提案もいたします。硬度のご相談でも、要求硬さを満たす別の材料が使えないか、熱処理を省けないかという観点から検討します。

また、既存品や類似品があれば最短1時間での見積対応が可能です。当社にデータがある素材を用いた特注シムの場合は、最短24時間以内の見積が可能となっております。

熱処理は協力企業ネットワークで対応

めっき、熱処理、コーティング、塗装、切削、ねじ切り、組付け、検査、計量、包装など付随する2次加工について、当社ネットワークの協力企業様とともに対応させていただきます。熱処理が必要な材質を選ばれた場合でも、工程ごとに手配先を分けていただく必要はありません。

4つの加工方法から最適な工法を選定

当社では、ワイヤーカットからプレス加工、エッチング、レーザー加工など、様々な加工方法の中から、お客様のご要望に応じて最適な工法をご提案できることが大きな強みです。硬い材料が必要な場合も、極薄で歪ませたくない場合も、同じ窓口でご相談いただけます。

なお精度の目安として、シムの厚みについては±0.002〜0.05mmの対応が可能です。外周、内周、穴径の精度は±0.02〜±0.05mmが目安となります。ただし板厚が厚くなるにしたがって厚みの精度が確保しにくくなりますので、詳細についてはお問い合わせください。

硬度指定の特注シムなら「特注シム製造センター.com」まで!

図面に硬度を指定したものの、薄いシムでその硬さをどう実現すればよいか。熱処理をして変形しないか。そもそも指定した尺度で測れるのか。こうしたお悩みは、材質・調質・加工方法をまとめて検討することで解決できる場合があります。

特注シム製造センター.comでは、材料調達から加工、2次加工の手配まで一貫して対応し、要求硬度を満たす材質と工法をあわせてご提案いたします。1個の試作から量産まで、板厚やサイズ、数量にかかわらずご相談いただけます。

図面や仕様がお決まりの方はもちろん、硬度の指定に迷われている段階でも構いません。まずはお気軽にお問い合わせください。

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よくあるご質問

Q. シムの硬度はどの単位で指定すればよいですか。

A. 薄いシムではビッカース硬さ(HV)が扱いやすい単位です。尺度ごとに測定原理が異なるため、換算値ではなく管理する尺度を先に決めることをおすすめします。

Q. 熱処理をせずに硬いシムは作れますか。

A. 可能です。ばね用ステンレス鋼帯のように圧延の調質で硬さを持つ材料を選べば、熱処理による歪みを避けられます。要求硬度が規格値に収まるかが判断基準です。

Q. 薄いシムでも硬さを測定できますか。

A. 硬さ試験には試験片の厚さ条件があり、薄い材料では規格どおりに測れない場合があります。当社では材料の規格値とミルシートでご確認いただく形を基本としております。

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